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安全対策が増えるけど請負単価は上がらない――専門工事はなぜ板挟みに陥るのか

目次

はじめに

近年、建設現場では安全対策の強化が急速に進んでいます。

墜落防止の設備や保護具の導入、毎日の安全教育、施工体制台帳の作成など、現場の安全意識は確実に高まっています。しかし一方で、その分のコストや手間が請負代金に反映されない現実もあります。

「やれと言われるが、単価は据え置き」

「書類仕事ばかり増えて、採算が合わない」

こうした声が専門工事業者の現場から多く上がっています。本記事では、制度的な背景と現場の実態を整理し、今後の前向きな道筋を考えます。


1. 安全対策強化の制度的な背景

まず、制度上は安全衛生経費を工事代金に含めることが明確に求められています。

法的根拠

  • 建設業法第19条の3では「不当に低い請負代金の禁止」が定められ、安全衛生経費も「通常必要と認められる原価」に含まれるべきとされています。
  • 建設業法令遵守ガイドラインでは、元請は下請と契約する際に安全衛生経費を含めて見積条件を提示し、工期や金額を適正に設定することが求められています。
  • 厚労省の指針でも「安全衛生経費の見える化」が重要とされ、発注者・元請・下請の三者で透明性のある契約を結ぶことが目標とされています。

つまり、制度的には「安全対策のコストは正しく請負代金に反映されるべき」なのです。


2. 現場で起きていること:増える手間と見えないコスト

しかし、実際の現場では以下のような課題が頻発しています。

現場が直面する課題

問題点具体的な内容
見積りの削減圧力見積に安全衛生経費を盛り込んでも、「高すぎる」と削られる
工期とのギャップ書類作成や安全教育、KY活動の時間が増えるが、工期短縮の圧力で時間が足りない
追加要求への対応「後からこれもやれ」と追加要求が来るが、追加費用を請求しづらい
人材不足中小の専門工事業者では、書類対応の人材も不足しており、現場担当者が兼務して疲弊する

調査でも、発注者の約7割が見積条件に安全衛生経費を含めていないというデータが示されています。つまり、多くの業者は見えないコストを背負わされているのが実態です。


3. 採算が取れない構造的な理由

専門工事業者が板挟みに陥るのは、構造的な要因が重なっているからです。

構造的問題の分析

🔸 単価が上がらない理由

  • 競争入札や発注者のコスト削減志向が強く、安全対策分を価格に転嫁しづらい

🔸 工期と手間のギャップ

  • 工期は短縮される一方で、安全対策にかかる工数は増大

🔸 元請との力関係

  • 下請けは発注条件に従わざるを得ず、追加要求も断りにくい

🔸 中小業者の体力不足

  • 管理部門がなく、現場監督や職人が書類仕事まで抱え込んでいる

こうして「やることは増えるが、収入は変わらない」構造が固定化されてしまっています。


4. 改善に向けた動きと前向きな展望

建設現場の作業員
適切な安全対策の実施には、コストの適正な転嫁が不可欠

暗い話題が続きますが、改善に向けた動きも始まっています。

改善の兆し

標準化の進展

  • 安全衛生経費の標準見積書が普及しつつあり、元請と下請の双方で「この程度は当然かかる」という基準を共有できるようになってきています

ガイドラインの徹底

  • ガイドラインの徹底により、元請側が契約時に安全経費を含めた工期・金額を明示する取り組みも広がっています

ICT・DXの活用

  • ICTやDXの導入により、安全チェックリストや書類作成を効率化し、現場の負担を減らす事例も増えてきました

まとめ:安全と採算の両立へ

安全対策は、現場で働く人の命を守るために絶対に必要です。しかし、現場でそれを担う専門業者が採算を取れなければ、結果として業界の持続性が失われてしまいます。

だからこそ、

  1. 発注条件の透明化
  2. 標準化された安全経費の導入
  3. 業界全体での協調と交渉力の強化

これらを進めることで「安全も守れる、利益も残せる」構造へと転換していく必要があります。

安全と採算の両立は簡単ではありませんが、現場の声と制度の改革を重ねれば、業界全体がより健全で魅力的な職場へ変わっていくはずです。

この記事を書いた人

HOYOSHAinternational株式会社は、「鳳陽社」「信和リース」「ルミエール」を関連会社とする企業グループです。

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