「現場の仕事は得意だが、事務所での経理作業は正直苦手だ…」
「未成工事支出金?勘定科目が複雑で、どんぶり勘定から抜け出せない」
「インボイス制度や電子帳簿保存法など、新しいルールに対応できるか不安だ」
小規模建設会社の社長様や一人親方として、日々現場と経営の両方に奮闘されている中で、このような悩みを抱えてはいないでしょうか。
ご安心ください。建設業の会計は確かに特殊ですが、ポイントさえ押さえれば、初心者の方でも必ず理解できます。
この記事では、建設業特有の帳簿の付け方について、専門用語を極力使わずに、具体的な仕訳例を交えながら徹底的に解説します。この記事を読み終える頃には、あなたは帳簿付けへの苦手意識がなくなり、自信を持って会社の数字を管理できるようになっているはずです。
正しい帳簿付けは、単なる義務ではありません。会社を守り、成長させるための「経営の羅針盤」です。さあ、一緒にその羅針盤を手に入れましょう。
建設業の会計はなぜ特別?帳簿付けの基本
建設業の会計が他の業種と大きく違う点は、「工事の期間が長く、年度をまたぐことが多い」という特性にあります。例えば、物販なら商品を仕入れて売ればその場で売上と原価が確定しますが、建設業ではそうはいきません。この特性を正しく会計処理するために、特別なルールや勘定科目が存在します。まずは、その大枠を理解することから始めましょう。
建設業特有の会計ルールとは?
建設業会計の最大の特徴は、工事ごとの収益と費用を正確に対応させる点にあります。一般的な会計では「発生主義」といって、費用や収益が発生した時点で計上しますが、建設業では工事が完了するまで売上が立ちません。しかし、材料費や外注費などの経費は日々発生していきます。この期間のズレを調整するために、「未成工事支出金」といった特殊な勘定科目を用いて、工事が完了するまで原価を一時的にプールしておく、という考え方が基本となります。このルールを理解することが、建設業の帳簿付けをマスターする第一歩です。
「工事完成基準」と「工事進行基準」の違い
建設業の売上を計上するタイミングには、主に2つの基準があります。小規模な会社では「工事完成基準」が一般的ですが、違いを知っておくことは重要です。
基準名 | 売上計上のタイミング | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
工事完成基準 | 工事が完成し、引き渡しが完了した時点で、工事収益と工事原価をまとめて計上する。 | 会計処理がシンプルで分かりやすい。 | 工期が長いと、工事期間中の業績が分かりにくく、売上が計上されない年度が出てくる可能性がある。 |
工事進行基準 | 工事の進捗度合いに応じて、決算期ごとに売上と原価を計上する。 | 毎期の業績を正確に把握できる。 | 進捗度の見積もりが難しく、会計処理が複雑になる。 |
基本的には、小規模な工事が多い場合は「工事完成基準」で問題ありません。ただし、長期にわたる大規模な工事を請け負う場合は、金融機関からの融資評価などの観点から「工事進行基準」の適用を検討する必要が出てくることもあります。
建設業で使う主な帳簿の種類
法律で備え付けが義務付けられている帳簿はいくつかありますが、特に重要なのは以下の3つです。これらは会社の財産や取引の状況を正確に記録し、決算書を作成するための基礎となります。会計ソフトを使えば自動で作成されるものも多いですが、それぞれの役割を理解しておきましょう。
- 現金出納帳: 現金の入出金を日付順に記録する帳簿です。日々の現金の動きを管理し、残高を合わせるために不可欠です。
- 総勘定元帳: すべての取引を勘定科目ごとに分類・集計した帳簿です。「売掛金」や「材料費」など、科目ごとの増減と残高が一覧できます。決算書作成の核となる最も重要な帳簿です。
- 工事台帳: 建設業法で作成が義務付けられている、工事現場ごとの原価管理帳簿です。現場ごとの利益を正確に把握するための生命線とも言えます。材料費、労務費、外注費、経費などを詳細に記録します。
これだけは覚えたい!建設業特有の勘定科目
建設業の帳簿付けで多くの方がつまずくのが、見慣れない勘定科目です。しかし、核となる科目は限られています。ここでは、最低限覚えておくべき重要な勘定科目をピックアップして、分かりやすく解説します。これさえ理解すれば、日々の仕訳に迷うことが格段に減るでしょう。
「未成工事支出金」とは?材料費や外注費の扱い
「未成工事支出金(みせいこうじししゅつきん)」は、建設業会計の最重要科目です。これは、まだ完成していない工事のために支払った材料費や外注費などを、一時的に資産として計上しておくための勘定科目です。
例えるなら、「仕掛かり中の工事専用の仮置きボックス」のようなものです。工事が完成して売上(完成工事高)が立つまでは、このボックスに原価をどんどん入れておき、完成した瞬間にボックスの中身をすべて「完成工事原価」という費用に振り替えます。これにより、売上と原価が同じタイミングで計上され、正確な利益計算が可能になるのです。
「完成工事高」と「完成工事原価」を理解しよう
この2つは、損益計算書に登場する建設業の「売上」と「売上原価」に相当する科目です。
- 完成工事高(かんせいこうじだか): 完成して顧客に引き渡した工事の売上高のことです。一般的な会計の「売上高」と同じ意味合いを持ちます。工事代金の請求額がこの科目で計上されます。
- 完成工事原価(かんせいこうじげんか): 上記の完成工事高を得るために直接かかった費用の合計です。工事が完成した時点で、「未成工事支出金」にプールされていた材料費、労務費、外注費などがこの科目に振り替えられます。
「完成工事高」から「完成工事原価」を差し引いたものが、工事の粗利益となり、経営状況を把握する上で非常に重要な指標となります。
建設業の勘定科目一覧表
建設業でよく使われる特有の勘定科目を、貸借対照表(会社の財産状況を示す表)と損益計算書(会社の儲けを示す表)に分けて整理しました。まずはこの表を眺めて、どのような科目があるのか全体像を掴んでみてください。
分類 | 勘定科目 | 内容 |
---|---|---|
資産 | 未成工事支出金 | 未完成の工事にかかった原価(材料費、外注費など)を一時的にプールする。 |
完成工事未収入金 | 完成した工事で、まだ入金されていない代金(売掛金に相当)。 | |
負債 | 工事未払金 | 工事に関する費用(材料費、外注費など)で、まだ支払っていないもの(買掛金に相当)。 |
未成工事受入金 | 工事が完成する前に、施主から前受けした手付金など(前受金に相当)。 | |
収益 | 完成工事高 | 完成・引き渡し済みの工事の売上高。 |
費用 | 完成工事原価 | 完成工事高に対応する原価。材料費、労務費、外注費、経費の4つに大別される。 |
【仕訳例で学ぶ】現場ごとの帳簿の付け方ステップ
理論を学んだところで、いよいよ実践です。ここでは、一つの工事が始まってから完了するまでの一連の流れを、具体的な仕訳例とともにステップ・バイ・ステップで見ていきましょう。日付と金額は仮のものですが、実際の帳簿付けのイメージを掴むことができます。
ステップ1:材料を仕入れた時の仕訳
4月10日、A工事のために木材を50万円で掛け(後払い)で仕入れたとします。この時点では工事はまだ完成していないため、かかった費用は「未成工事支出金」として計上します。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
未成工事支出金 | 500,000円 | 工事未払金 | 500,000円 |
この仕訳は、「A工事のための費用(資産)が50万円増え、同時に後で支払う義務(負債)も50万円増えた」ということを意味します。現金で支払った場合は、貸方が「現金」となります。このように、発生した原価はすべて未成工事支出金に記録していくのがポイントです。
ステップ2:外注費を支払った時の仕訳
4月20日、A工事で依頼した下請け業者へ、外注費30万円を普通預金から支払いました。この外注費もA工事の原価の一部なので、「未成工事支出金」に計上します。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
未成工事支出金 | 300,000円 | 普通預金 | 300,000円 |
これで、A工事の「未成工事支出金」の合計は、材料費50万円+外注費30万円で80万円になりました。このように、工事が完成するまでにかかった費用は、すべて「未成工事支出金」に積み上げていきます。これにより、どの工事にいくら費用がかかっているかが明確になります。
ステップ3:工事が完成し、代金が入金された時の仕訳
5月31日、A工事が無事完成し、施主に引き渡しました。工事代金は200万円で、後日入金される予定です。
まず、工事が完成した時点で売上を計上し、それまでプールしていた原価を費用に振り替えます。
【売上を計上する仕訳】
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
完成工事未収入金 | 2,000,000円 | 完成工事高 | 2,000,000円 |
【原価を費用に振り替える仕訳】
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
完成工事原価 | 800,000円 | 未成工事支出金 | 800,000円 |
そして6月25日、工事代金200万円が普通預金に入金されました。
【入金時の仕訳】
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
普通預金 | 2,000,000円 | 完成工事未収入金 | 2,000,000円 |
この一連の流れにより、A工事で200万円の売上(完成工事高)と80万円の費用(完成工事原価)がかかり、120万円の利益が出たことが帳簿上でも明確になりました。
利益を正確に把握する「工事台帳」の書き方
工事台帳は、先ほどの仕訳の元となる情報を工事ごとにまとめたもので、税務調査でも必ず確認される重要な書類です。最低限、以下の項目を記録しておきましょう。
- 工事名、注文者名、工事場所、工期
- 請負金額
- 材料費(品名、数量、単価、仕入先など)
- 労務費(作業員名、作業日数、賃金など)
- 外注費(外注先、工種、金額など)
- 経費(現場でかかった交通費、通信費など)
これらを正確に記録することで、工事ごとの詳細な利益分析が可能になり、「どの現場が儲かって、どの現場が赤字だったのか」が一目瞭然になります。Excelなどで簡単なフォーマットを作って管理するだけでも、経営の質が格段に向上します。
帳簿付けを劇的に効率化!会計ソフト活用術
ここまで帳簿付けの基本と具体的な仕訳例を見てきましたが、「これを全部手作業でやるのは大変そうだ」と感じた方も多いのではないでしょうか。その通りです。多忙な社長様や一人親方にとって、手書きでの帳簿管理は時間的にも精度的にも限界があります。そこで強力な味方となるのが「会計ソフト」です。
なぜ会計ソフトを使うべきなのか?手書きとの比較
会計ソフトを導入するメリットは計り知れません。手書きやExcelでの管理と比較すると、その差は歴然です。
比較項目 | 会計ソフト | 手書き・Excel |
---|---|---|
作業時間 | 大幅に短縮。銀行口座やカードと連携すれば入力が自動化。 | 膨大な時間がかかる。転記ミスも発生しやすい。 |
専門知識 | 簿記の知識が少なくてもOK。ガイドに従って入力すれば仕訳が完了。 | 簿記や勘定科目の知識が必須。 |
正確性 | 計算ミスがなく、転記漏れも防げる。 | 計算ミスや転記漏れのリスクが高い。 |
経営分析 | リアルタイムで業績レポートが自動作成される。 | 自分で集計・分析する必要があり、手間がかかる。 |
法改正対応 | インボイス制度や電子帳簿保存法など、自動でアップデート対応。 | 自分で情報を収集し、対応する必要がある。 |
ご覧の通り、会計ソフトは単なる記帳ツールではなく、経営を強力にサポートするパートナーと言えます。初期費用や月額費用はかかりますが、それ以上の時間的コストの削減と経営改善効果が期待できます。
小規模建設業・一人親方におすすめの会計ソフトの選び方
現在、多くの会計ソフトがありますが、建設業の方が選ぶ際には以下の3つのポイントを確認しましょう。
- 建設業会計に対応しているか: 「未成工事支出金」などの勘定科目が標準で設定されているか、工事台帳の作成機能があるかなどを確認しましょう。
- クラウド型かインストール型か: クラウド型はインターネット環境があればどこでも作業でき、法改正にも自動で対応するためおすすめです。事務所と自宅、現場のどこからでもアクセスできます。
- サポート体制は充実しているか: 初めて使う場合、操作方法でつまずくこともあります。電話やチャットでのサポートが充実しているソフトを選ぶと安心です。
多くのソフトで無料お試し期間が設けられています。まずはいくつか試してみて、ご自身の事業規模やITスキルに合ったものを見つけるのが良いでしょう。
会計ソフト導入の3つのステップ
会計ソフトの導入は、思っているよりも簡単です。以下の3ステップで進めれば、スムーズに運用を開始できます。
- 初期設定を行う: 会社情報、事業年度、消費税の設定など、基本的な情報を入力します。画面の案内に従って進めれば1時間程度で完了します。
- 金融機関やクレジットカードを連携する: これが会計ソフト最大のメリットです。銀行の入出金明細やカードの利用履歴が自動で取り込まれ、仕訳の候補も提示してくれるため、入力の手間が9割以上削減されることもあります。
- 日々の取引を入力(選択)する: 自動で取り込まれた明細に対して、勘定科目を選択・登録していきます。AIが学習し、同じ取引は次回から自動で仕訳してくれるようになります。レシートや請求書はスマホアプリで撮影するだけで取り込める機能も便利です。
知らないと損!建設業に関わる法改正への対応
最後に、近年多くの事業者を悩ませている2つの大きな法改正について解説します。これらは建設業も例外ではなく、正しく対応しないと税金面で損をしたり、ペナルティを課されたりする可能性があります。帳簿付けと密接に関わる重要なポイントですので、必ず押さえておきましょう。
2023年開始!インボイス制度への対応方法

インボイス制度(適格請求書等保存方式)とは、簡単に言うと「消費税の納税額を正確に計算するための新しいルール」です。特に、免税事業者(年間売上1,000万円以下)の一人親方や、免税事業者に外注している会社は注意が必要です。
自社が課税事業者で、取引先(元請けなど)からインボイス(適格請求書)の発行を求められた場合は、「適格請求書発行事業者」の登録が必要です。登録すると、請求書に登録番号などを記載する義務が生じますが、消費税の申告・納税も義務となります。一方、下請けの外注先が免税事業者のままだと、その外注先に支払った消費税分を自社の納税額から差し引けなくなり、税負担が増えてしまう可能性があります。日々の帳簿付けにおいては、受け取った請求書がインボイスの要件を満たしているかを確認し、適切に保存することが求められます。
避けては通れない電子帳簿保存法のポイント

電子帳簿保存法は、国税関係の帳簿や書類を電子データで保存するためのルールを定めた法律です。特に重要なのが「電子取引データの保存義務」です。これは、メールで受け取った請求書や、Webサイトからダウンロードした領収書などの電子データを、紙に印刷して保存するのではなく、データのまま保存しなければならないというルールです。
保存する際には、単にフォルダに保存するだけでなく、「取引年月日・取引金額・取引先で検索できるようにする」「改ざん防止の措置をとる」といった要件を満たす必要があります。会計ソフトの中には、この電子帳簿保存法の要件に対応した書類保存機能を持つものも多く、ソフトを活用することが最も簡単で確実な対応策と言えるでしょう。
まとめ:正しい帳簿付けで会社を成長させよう
本記事では、建設業の帳簿付けについて、特有の勘定科目から具体的な仕訳例、会計ソフトの活用法、法改正への対応までを網羅的に解説しました。
建設業の会計は一見複雑に見えますが、「未成工事支出金」と「完成工事高・原価」という核心部分さえ理解すれば、決して難しいものではありません。正しい帳簿は、税務調査に備えるためだけでなく、自社の経営状況を正確に把握し、次の戦略を立てるための重要なデータとなります。
どんぶり勘定から卒業し、数字に基づいた経営判断ができるようになれば、会社の利益体質は必ず強化されます。まずは無料体験ができる会計ソフトを試してみるなど、今日からできる第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。その一歩が、あなたの会社をより強く、たくましく成長させるはずです。
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